皮膚の進化

化粧品と肌と、肌がキレイになること


先日、某所で「化粧品販売員の研修」を請け負うことがあり、せっかくなので、そこでお話した内容のごく一部を簡単にまとめておきたいと思います。

生物進化の中の皮膚

生物は海で誕生し、海水から淡水、水中から地上へと生息域を広げるには紫外線、乾燥といった「細胞を破壊し、生体の維持を困難にする問題」がありました。

だから地上で生活する生物は、紫外線や乾燥から身を守るためウロコや卵の殻、毛などを身にまといます。

哺乳類であるヒトも、紫外線や乾燥、細菌やウイルスからも身を守るための皮膚を持ちます。(参照:紫外線によるニキビへの影響

ヒトの皮膚は「体の外」の環境の変化、刺激などを、体内に影響させないためのものであり、「生物としての役割」を最優先して行う、「人体のシステム」です。

化粧品メーカーの研修や宣伝などでは、「肌にはキレイになろうとする力があります!」ともいいます。

でも実際の皮膚は、積極的に「キレイになりたい」とは思っていません。

「生きるため・身を守るため」に、異物の排除を優先して行うシステムです。

だから肉親間でも皮膚移植はできません。

皮膚のバリア機能

皮膚は「体を守る」=「自分自身の安定を守る」ために、二重のバリア機能を備えます。

第一のバリアを「角質層」というわずか0.02ミリ、ラップのように薄いバリアが担います。(参照:きれいな肌とは

正常な角質層が安定してつくら続ける肌は、

「生き物のバリアとして丈夫」で、「社会性による欲求=見た目のキレイさ」も、両方満たしている状態です。

二重のバリア機能

しかし第1のバリアである角質層に問題があれば、皮膚では「第2のバリア」が機能します。

たとえば数週間かけて行なわれる表皮ターンオーバーが早まり、バリアをカバーします。(参照:肌トラブルとは

しかし急いで作られた角質層は、厚く、はがれやすく、硬く、もろいものになり、肌荒れや乾燥肌、毛穴が目立つ、角栓、毛穴を詰まらせニキビを形成するなど、様々な肌トラブルの原因になります。

第1のバリア角質層は「物理的なバリア」であり、これが壊れた時の第2のバリアは「機能的なバリア」であると理解してください。

生物的な皮膚、社会的な肌

「皮膚・角質層は体を守るためのものである」という前提で考える場合、いわゆる肌トラブルは、同時に「生物としての防御反応」でもあります。(参照:スキンケアの成果を取り戻す「肌質」考察-健康な肌と敏感肌

私たち人間はつい「身体」を忘れがちですが、「社会生活では困るような身体反応」でも、「生き物としてのヒト」にとって、必ずしも「単なる厄介事」ではありません。

もちろん「どちらが大事か?」という選択は無意味で、「身体機能」と「社会性」の両立が必要になります。

化粧品とバリア機能

化粧品に関して、お客様も販売員も、共通の誤解を持っていることも多くあります。

一例を上げれば

  1. 化粧品は成分の効き目が肌をキレイにする
  2. モノによって「効き目」が違う
  3. したがって「私の肌に合う商品」を見つけて使えば(成分を効かせれば)肌はきれいになる

などです。

しかし、そのような化粧品はありませんし、肌の方もそういうものではありません。

皮膚は

  • 異物を侵入させないための角質層のバリア
  • バリアが壊れた時の反応を優先させる

というシステムです。

本来皮膚にとって異物である化粧品成分は浸透しづらいものです。

そして、「イオン導入とピーリングのパッケージ」のように「壊してでも浸透」させるなら、「壊れた時の反応」が強くなりますから、肌はトラブルを優先して起こします。

仮に壊さず浸透させても、刺激に晒したり、壊れる状態になれば、結局は「壊れた時の反応」を優先させます。

ですから、「正常なバリア構造を安定して作り続ける肌」でいれるように、「調整し続ける」事が必要になり、化粧品の使用は、この「調整し続ける方法の一つ」になります。

化粧品成分の誤解

肌が「常に細胞が入れ替わり続ける動的なもの」という意識がないと、「成分を効かせて気になる症状を治す。治せば解決。」という考え方に傾きがちになります。

同時に成分について意識が向きすぎると、「成分が怖いから自然派・オーガニック」という逆張りにもなります。

でもこれはいずれの場合も供給サイドのマーケティングに過ぎません。つまり、そこで扱われるのは消費者心理の問題です。

入れ替わり続けるバリア構造

もちろん心理の変化で肌が変わるなら、それでもいいかもしれませんし、特に変わらなくても問題がないならそれでいいと言えます。

でも肌は基本的にそういうものではありません。

化粧品販売員研修
肌をきれいにする、そしてそれを維持するには、角質層のバリアを構成する細胞は「常に入れ替わり続けている」ということと、それを常に「きれいな状態でいれるように調整し続ける」という意識が必要です。

くり返しますが、肌は「体を守るための反応を最優先で起こすシステム」です。

なので「単に化粧品による調整だけ」でも不十分であり、肌の扱い方についてトータルに理解することも重要なポイントになります。

肌は人工物ではない

以上、「いつもの話じゃないか!」と思われる内容ですが、「人体」は人類の登場から変わってはいませんし、環境の変化も「温暖化」など言われていますが、「海中→地上」という大きな変化ではありません。

ので、「大規模な人体の進化」でもない限りは、おそらくヒトがヒトである間は、おおむね通用する話じゃないかと思います。

ただし、都市環境の進歩やエアコン、また食品類もある種の環境ですが、「人体を囲む環境」は大きく変化しています。

人間は、心理的には「快適さ」を手に入れた一方で、同時に、肌にとって「マイナスになる要因」が増えているかもしれません。

肌そのものは「人間が考えて作ったもの」ではなく、人体に作り付けのもの、すなわち「自然に作られたもの」です。

ですから「気合や意思のおしつけ」で変わるわけではありません。

あくまでも肌の仕組みや都合に合わせて、ケアを行うことが大切ですね。

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2014年5月30日20:14 / 投稿者:kazuyuki terada